ウイルス感染対策としての
歯科の重要性

1. 口腔健康管理(口腔清掃)はウイルス感染への水際対策です。

感染症予防のために大事なことは、身体を清潔にすることです。清潔な体の表面に病原菌は感染しにくいのです。しかし、手や身体、髪を洗うことはこころがけていても、お口の中を清潔にすることを忘れていませんか?

ウイルスの感染は鼻と口と目から起こります。お口が不潔だと、口に入ってきたウイルスが感染しやすくなります。お口に住んでいる細菌が出す蛋白分解酵素は、ウイルスが粘膜細胞の中に感染することを促進します。ウイルス感染予防のために、お口の衛生管理を心がけてください。特に歯周病菌は強力な蛋白分解酵素をもっています。歯周病にかかっている方には、ご自身での口腔清掃とともに、歯科医院におけるプロフェッショナルケアも大事です。

2. 不潔なお口は腸内細菌のバランスを乱して全身の免疫力を弱めます。

ウイルス感染への有効な対策は、身体の免疫力を低下させないことです。
腸内細菌のバランスは全身の免疫に密接にかかわっています。そのため腸内細菌のバランスが崩れると、感染症にかかりやすくなったり、さまざまな全身疾患が発症しやすくなることが知られています。

お口の細菌が食道・胃を通って腸内にたどり着き、腸内細菌のバランスを乱して全身疾患発症の原因となることが判ってきました。

お口が不潔な方、特に歯周病にかかっている方は、食事のたびにたくさんのお口の細菌が腸にはこばれるため、全身の免疫力が低下するリスクが高まります。

3. お口が不潔だと肺炎のリスクも高まります。

中高年になると特に、誤嚥といって、食べ物や唾液が胃につながる食道ではなく、肺につながる気道に入ってしまうことがあります。むせる、とはこのことです。

お口が不潔だとこのときにたくさんの細菌が肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎という肺炎を起こしてしまいます。誤嚥のリスクが高い方は、ウイルス性肺炎のリスクも当然高くなります。

さらに、歯茎に住む歯周病菌が血流に乗って全身を駆け巡り、からだのあちこちに炎症をおこします。また歯茎の炎症によりつくられた炎症を起こす物質(炎症性物質)も血流にのって全身へとばらまかれます。その結果、身体の免疫が乱されてウイルス感染による炎症症状がすすみやすくなってしまいます。

4. コロナウイルスは口からもやってきます。

現在たくさんのコロナウイルス感染症に関する論文が発表されています。
これらの論文は、ウイルス感染が「口腔からも始まる」可能性を示しています。今後ますます検証が進むと、コロナウイルス感染の予防には口腔衛生管理が重要であることがはっきりしてくることでしょう。

手洗い・うがいに加えて、お口のセルフケア(丁寧な歯磨き)とプロフェッショナルケア(歯科医院での専門的クリーニング)をこころがけてください。また舌を磨くこともウイルス感染予防に効果があります。

5. 味覚異常があるときは、発熱や他の症状がなくても、新型コロナウイルス感染の可能性があります。

本来、さまざまなウイルスは、人間のなにかの細胞に寄生して増殖します。専門的になりますが、新型コロナウイルスの場合、ACE2受容体(アンギオテンシン2受容体)を持つ細胞に感染することが報告されています。新型コロナウイルスが、Ⅱ型肺胞上皮に存在するACE2受容体に結合し感染、増殖することで生命を脅かすウイルス性肺炎を発症すると推測されています。

そのACE2受容体は、体内のあらゆる箇所に存在しますが、口腔内粘膜にも多く存在すると報告されています。味覚障害は、舌の上に多く分布する味蕾細胞が新型コロナウイルスの感染によって破壊されておこるのだと推測されます。特に暴露が少ない場合、または極めて初期の場合、鼻腔や口腔だけが感染している可能性も十分に考えられます。

すなわち、発熱や咳や呼吸困難がなく、味覚障害だけが出現しているのは、暴露が少ない場合や、極めて初期の場合で鼻腔や、口腔だけが感染している症例と推察されます。この段階でも他人に感染させる可能性があることは疑いようがありません。本人も、感染が時間とともに咽頭・喉頭そして特に広がる可能性が当然ありえます。味覚障害は新型コロナウイルス感染の自覚症状の重要な一つのシグナルだと認識してください。